電通陰謀論の不毛さ

植草氏が書かれた『売国者たちの末路』の中で「外資系ファンドの集まりで植草さんのことが話題となり、そこにいた人々が口々に「ウエクサはガリレオだ。ガリレオは火あぶりにしろ!」と叫んだという記述があるそうです。(97頁)

ネッ ト上にはこの手の陰謀論があふれかえっている。だが、その陰謀論を検証できないなら陰謀論を唱えることも陰謀論で説明することも意味ないと私は思う。だが 中には「インサイダー」には簡単に検証できる陰謀論もある。今回は電通は何故、メディアに巨大な影響力をふるうようになったかを説明してみよう。なお、最 初にお断りしておくが、このエッセーは私自身の体験談(前半)とそれから考えられる妥当と私が考える推論(後半)からなっている。

私が朝 日新聞の広告営業をしていた頃だ。ある日の夕方になっても次の日の朝刊1ページ(全面広告)が埋まらなかった。理由は不明だが、この全面広告は私が埋める ことになっていた。もし、埋めることができない場合は全5段の無料広告を3つ積み重ねて埋めることも可能だ。これを仮版で埋めるという。だが、これをやる と「私の力不足で埋めることができませんでした」という始末書を書かねばならない。それは将来の出世に関係してくるのだが、すでに辞表が背広のポケットに 入っている私はたいして気にしておらず、ボチボチどの仮版を入れて1面を埋めるかと考えていた。

その時に、電通の営業が駆け込んできて 「**さん、ぜひこれを明日の朝刊に入れてください」と言い、全面広告の原稿を出した。当時はまだ電子入稿では無かった。私は驚き「へー、今頃になって広 告を申し込むの?」と聞いた。夕方の6時に次の日の朝刊用広告原稿を入れるなど常識で考えられないからだ。そうすると電通の営業は「タダに決まってるで しょ」と吐き捨てるようにいった。私は「無料なら入れないよ」と答えると「*百万円つけます」と彼は答えた。

これは何を意味してるかとい うと、広告主は広告に全く金を払わないが、電通が自分たちの利益をはき出して、その広告に対して*百万円の支払いをするという事だ。彼は15分もすると 帰ってしまった。私は電通と仲が悪く、用がない限り電通に顔を出さないという変わった新聞社広告営業だったので狐につままれた思いだった。私の顔を見た上 司が「電通もノルマ達成に必死なんだよ。ありがたく広告売り上げ報告書を買いとけ」と言った。

次の日、広告売り上げ報告書を広告経理に出 しに行った時に「電通はどうしてこんな馬鹿な事をするんですか?」と聞いてみた。すると広告経理課長は「キミは算数が出来ないのか?」とからかうように 言った。「いいか、月に1億の広告をウチに入れたら戻しを含めてマージンは5千万だ。もし9700万しか入れられないとマージンは15%の1455万だ。 5000万から300万を引いた4700万と1455万とどっちが大きい?」

ここまでは実際に体験した事実である。電通の営業、私の当時 の上司、広告経理課長の名前も全て覚えている。ここから先は私の推測である。これは正しいかも知れないし間違っているかも知れない。私は一切、保証しな い。またこのエッセーを読んでいるかたが信じるも自由、信じないも自由である。以下の私の文章は全て推測であることを頭に入れて読んでほしい。

どうも朝日新聞社は電通に対し広告ノルマを課し、それを達成した場合は、通常の広告マージン15%よりはるかに大きい戻しと呼ばれる報奨金を払っているようだ。同時に、戻しはほぼ馴れ合いとなっており、実質的な電通の広告マージンは50%固定のようである。

一 般に新聞広告での広告会社が受け取るマージンは15%である。案内/求人広告などはもっと高い場合もある。これは何故かというと、案内/求人広告は営業が 足で稼ぐタイプの経費がかかる広告であり、一方で求人広告目当てに新聞を読む人が常に一定数いるために優遇する理由があるからだ。

だが電 通を優遇する理由など無い。無いにもかかわらず電通の実質広告マージンが50%だったということはメディア側が電通に対し譲歩を重ねてきたことを意味す る。これでは広告業界に競争がおきる訳がない。同じ広告を入れて、一方は50%のマージンを受け取り、残りの他社は15%か15に少し上乗せしたマージン しか受け取れない状況で、どうやって競争が生まれるのか?比較的、電通支配からのがれている新聞ですらこんな状況だった。TVがどうであるかは・・・・・

電通に関連する陰謀論は無数にある。だが元インサイダーの私から見ると、マージン率の違いがメディアへの影響力を増幅した結果に過ぎないように思える。

陰謀論なんて、インサイダーが見ればマージン率で説明できるんですよ(笑)。